先日とてもお世話になった元上司にソファーを頂いた。
数十万円もするヨーロッパ製のソファーでとても立派なものだ。
でもポイントはそこじゃない。
このソファーを頂く話が出た時、私達夫婦は今住んでいる借家には
分不相応だと思い、この有り難い申し出を断ろうと思っていた。
その話を聞きつけた私の母が
「断るなんてもったいない。あなたが貰って私に譲ってくれないかしら?」
と言って来た。
私はそれも良い考えかも知れないと思い夫に相談すると、いつも温和な夫は一瞬
怒ったような顔をして
「それはいい考えとは思えない。」
そう言った。
私がなぜか?と聞いてみると彼はこう言った
「僕らが貰わないとしたら、あの人は別の大事な友人に声をかけるだろ?
だから僕らが使わないのだとしたら、ちゃんと貰わないべきなんだ。」
そう言われてハッとした。
そうか、私達がお世話になった元上司は
激情型で仕事にとても厳しくて、その激しさから敵も多い人だった。
でもその反面、人一倍思いやり深く、人一倍愛情深い人なのだ。
そんな上司が、私達にソファーをあげたい。と連絡してきた。
私は夫の言わんとする事に気付いて、すぐ母に電話して断ることを伝えた。
すると母は
「そうね、そうだったね。あなた達がお世話になったあの方は、
そういう人だった。」
ごめん、ごめんと笑いながら電話をきる。
週末私と夫は、お中元を持って元上司に挨拶に行った。
するとそのソファーはとても綺麗に片付けられた部屋の中央に
配置されており、すごく上司の家に似合っているではないか。
ますます貰えないなぁ・・・そう思っていたら、元上司はこう言った。
「どうだ凄く立派だろ。家内もとても気に入ってたんだが少々置き場に苦労するんだ。どうか貰ってくれないか?
いや、実はな、来月一人娘が臨月で実家に帰ってくる。だから部屋を一つ開けないといけないんだよ。」
いつも厳しい表情の元上司の顔がほころんでいる、嬉しさを隠せないといった様子だ。
その様子を見て私達夫婦はソファーを貰うことにした。
そして今、私達の六畳のリビングにやってきて、威風堂々と居座るソファーを眺める。
ことの顛末を思い返すと”贈り物”っていうのは、こういうことを言うのではないの
かと思えてくるのだ。
幸せの伝播、大切な誰かにリレーしたい気持ち、相手の気持ちを慮って、笑顔で頂く贈り物。
そういう訳で我が家のものになったソファーは、この家の誰よりも大きな顔をして
リビングに鎮座している。
なんてことはない、ソファーのおはなし。